剣岳
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涙の再生力! 

     
 平成25年7月 作 

この7月、群馬県の館山市では、すでに39・5度を記録した。熱帯夜の寝苦しい夜は、一日の終わりを少しだけ涙し、小さな感動とともに力尽き、終わることがいい。寝室のテレビのHDDには、選りすぐった共感できる作品が録画されている。映画・ドラマから大震災のドキュメンタリーまで様々、喜怒哀楽の極みから感動の作品ばかりである。そのうちのどれかが一日の終わりの私のひと時を優しく包み込んでくれる。涙を流した後、気持ちが解放され、心身がリラックスした状態になって眠れる。 

あの涙は一体何だろう。 

東邦大学有田秀穂教授によると、私たち人間が流す涙は三種類に分けられるという。一つ目は、ドライアイ防止や角膜保護のために常に分泌される「基礎分泌の涙」。二つ目は、目にゴミが入った時に防御のために出る「反射の涙」。そして三つ目が、悲しみや感動で流す「情動の涙」。スポーツ選手が表彰台で泣くのは、つらいトレーニングをしてきた思い出や、勝負に負けた時の悔しさを思い出し、それを乗り越えた喜びと解放感に満たされるからだという。それを見て涙を流す私たちも、その道のりを擬似体験し、自分の体験と重ね合わせて心が解放されているのです。つまり、涙には、その時の高まっている感情を抑え、心身をリラックスさせる力が秘められている。 

神経の働きから考えると、昼間の活動中や特に緊張している時などに優位になるのが、交感神経。脈拍や血圧が高くなり、集中力もアップする。反対に眠っている時、リラックスしている時などには、副交感神経が優位になる。興味深いのが、眠ること以外に副交感神経へとスイッチを切り替える方法が、涙を流すことだった。睡眠よりも、泣くことの方がストレスを解消し、心の混乱や怒り・敵意を改善するという。 

さて、最近ビジネスマンの間では「涙活(るいかつ)」といって、涙のもたらす効果に焦点を当て、心や脳に抱えてしまったストレスを解き、感情の浄化を促す方法として、自ら能動的に涙を流すといった活動が注目されている。小さなサロンに集まり、映画などをみて、意識的に涙を流す時間を作ってストレスを解消し、気分をすっきりさせるらしい。 

涙を流すことによって、緊張やストレスに関係する交感神経から、脳がリラックスした状態の副交感神経へとスイッチが切り替わる。「情動の涙」は、決して恥ずかしいことではなく、神様がストレスを溜め込んでしまう私たち人間に与えて下さった特別な機能・贈りものなのだろうか。

                               司法書士 矢田良一