唐沢岳 

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タイトル; 
 災害列島と想定すべきリスク!
 平成24年7月 作 
 

日本は、どんな国だろうかと問われれば、地震と台風そして豪雨に象徴されるように自然に翻弄される災害列島であるという見解ができなくもない。平成二三年度を振り返っても、一月の北陸山陰豪雪と新燃岳の噴火に始まり、三月の東日本大震災と津波そして震災による原発事故、七月の新潟福島の集中豪雨、九月の台風一二号による紀伊半島の土石流と、まさに日本は世界でも特異なほどの災害列島である。 

私たちは、日常生活、企業活動を営む際に、こうした災害をどこまで想定すべきなのだろうか。あるいは、どこまでのリスクを考えればよいのだろう。リスクの大小は、「発生確率」と「被害の大きさ」の積と教わってきた。そしてリスクに備えるためにかかるコストを考慮して、割にあうもののみを対策し、そうでないリスクは諦める、言いかえれば起きた場合にはそれを甘受するという選択をとるしかないと思ってきた。 

折しも、科学技術社会論を専門とする大阪大学の小林傳司教授の講義を聴く機会があり、彼がリスクの特質を多面的に捉えていることに驚かされた。彼の言を借りると、リスクとは第一に発生確率、第二に被害(損害)の程度はもとより、第三に偏在性、つまり損害の地理的分布、被害がどの地域まで及ぶか、第四に持続性、つまり瞬間で終わるか、それとも数十年に及ぶかという被害の時間的広がり、第五に可逆性、つまり被害の生じる以前の状態への復旧が可能か否か、第六に遅延効果、つまり起因事象と被害の出現との間の潜伏期間が瞬時なのか、あるいは数十年までに及ぶのか、第七に平等性の侵犯、利益の受益者とリスクの担い手の不一致、第八に社会的動揺の可能性、つまり個人や社会、文化の利害や価値の侵犯により、社会的紛争やその結果に苦しめられると感じられる個人や集団を生み出す可能性。たとえば、事故によってその地域に理不尽な差別が起ったりしないかだそうです。 

こうして、リスクの特質を八点上げてみると、原子力発電技術は二〇世紀を代表する巨大な総合科学技術の典型である反面、これらすべてのリスクを含んでいたように思える。六〇年前の物理学者寺田寅彦のメッセージ「文明が進化するほど災害も進化する」という教えはいつまでも生き続けていくだろう。  

                       司法書士 矢田良一