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人生という舞台はまだ始まったところだ!       〜中学を卒業する君たちへ〜 

 
 平成21年3月 作

五〇歳を迎えた時、考えたことが一つある。半世紀も生きたという実感、やがて人生の最終章に向かう途上、「私の人生のピークはいつだったのだろうか」ということである。 

それを考えることは怖いものでもあり、この先まだ何かあるかもしれないという多少の期待もあった。しかし、現実はそう甘くはない。体力・持久力・瞬発力・感受性・記憶力そして想像性と様々なことが衰えている。何もかもが衰えているという事実。ところが、その不安と諦めを一掃させてくれたのが、茂木健一郎という脳学者との出会い。つまり例外があった。それは脳である。人間の脳の働きはいつまでも変化するという研究報告である。人間の脳は常に新しい刺激を求めていく。かって脳は、子どものときにもう出来上がっているといわれていた。年をとれば成長しないといわれていた脳が、実は頻繁に使えば年齢・環境に関係なく進化するという事実である。 

さて私たち日本人は素晴らしいものに恵まれている。美しい四季、春夏秋冬に包まれて一年を過ごしている。たとえば、冬の中でも、様々なドラマがある。冬の始まりは、木枯らしで明ける。みぞれが初雪となって冬本番に入る。夜の長い日々が続く。冬の深まりは、一日中どんよりと底冷えし、樹木はじっと耐え潜む。そして、冬の終わりは、春の始まり。春は、「光」から始まり、「光の春」が、大地のとびらを開け、生命の新しい息吹の芽を覚ます。年々歳々、この移り変わりは繰り返され、この四つの美しいドラマに私たち日本人は包まれている。日本古来の名作『平家物語』は、有名な「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声(ね)、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響あり。沙羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)を顕(あらわ)す。・・・」という文章で始まる。「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず・・・」これは鴨長明(かものちょうめい)が書いた随筆『方丈記』の冒頭だ。いずれも「すべてのものは常に変化する」ということを語っている。私たちは何となく、今の状況がずっと続くのではないだろうか、と思い込みがちである。ところが、よくよく思いを巡らせてみると、この世界にある一切のものが多かれ少なかれ必ず変化するものであることに気付く。どんなに辛いいじめ・不慮の事故に出遭った哀しみも、それはきっと続かない。こんなに愉しい日々・愉快な仲間も巡っていく。私たちは、日本の最も美しい四季のドラマを通して「すべてのものは常に変化する」という真理を育んでいた。 

中学生のみなさんは、まだ若干十代の前半である。それぞれ得手不得手もあるだろう。いまの自分を見て、決して自分の人生を決め付けないでほしい。自分はこういう人間だとあきらめるように決め付けてはいけない。人には必ず伸びる時期があり、あなたを伸ばしてくれる出会いがある。みなさんのこれからの人生がどのように変化し、展開するか、全く未知数です。人生という舞台はまだ始まったところだ!