ジャンダルム 
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職場で悩んでいるあなたへ! 

     
 平成25年3月 作 

入社後3年で退職する新卒者が5割にも及ぶという報告がある。厚生労働省の平成24年秋発表の統計によると、2009年に入社した若者のうち、大卒者は28%、高卒は35%が3年以内に離職した。離職率は1995年ごろから高い水準で推移し、一時は中卒者で7割、高卒者で5割、大卒者で3割にのぼり「7・5・3問題」として取り上げられたこともあった。 

何故、簡単に転職に踏み切ってしまうだろうか。 

職業一つとっても、選択肢が多くなったことが離職を容易にしているし、テレビCMの影響もあって転職に対する世間的な理解も広まってきていることも拍車をかけている。しかし、離職の多くは、いまの職場に不満であるというマイナス面が原因だろう。 

第1に待遇・給料面が不満であったり、労働時間の関係で辞めてしまう場合、第2に仕事に生きがいを感じられない・面白くない場合、第3に人間関係に苦しむ場合等が考えられる。それぞれ非常に難しい問題であるが、本来仕事が楽しいとは限らないし、楽しくてやりがいのある仕事に就ける人は少ない。仕事を続けている人の多くが、与えられた仕事にどのように生きがいを見出していくかと格闘している時期を経験しており、仕事に取り組む自分が前向きに変化していけば、与えられる仕事の内容も状況もやがて変わっていくものである。第3の人間関係も、世の中には色々な人がおり、生理的に受け付けない人も多数存在するが、それらを如何に上手く対応していくかは、生きる手法の問題であり、仕事のみならず今後の人生においても大きな財産となるはずである。それでも自分にあった仕事がどこかにあり、本当の自分の仕事探し・本当の自分探しへと苦しい営みに踏む出す若者が多いのは確かである。気になるのは、警察庁の調べによると、2011年の10〜20代の就職失敗が原因とされる自殺者が150人で4年前の2.5倍になったことである。  

さて、芥川賞作家の平野啓一郎氏が、「分人」という概念を提案している。聞きなれないが、「個人」に対置する言葉で、内部に本当の自分があると思うと生きづらくなる。そうではなくて、他人との関係の中で、その都度、変わりゆくものとして、関係の数だけ、自分がいると思えばいいそうである。 

会社で働いている自分は、私の一部で、終業後は別の自分、家に帰れば、また別の自分がある。私とは、そういった「分人」の集合で、新しい人間関係を誰かと結べば、また別の分人ができる。つまり、状況や相手により異なる「自分」になるという概念であり、「キャラの使い分け」とは違う。「その場限りの仮面」の裏に「本当の自分」があるわけではない。「多重人格」とも異なり、相手と協同して「自分」が成り立ち、作られていく関係である。 

職場という狭い環境で追い込まれたように感じ、息が詰まる状態に身を置き続ければ、呼吸が苦しくなるばかりだ。今の職場の人間関係に苦しんでいるのなら、オプションとして、違う人とのつながりも求めて、新しい関係を生きてほしいと思う。 

                               司法書士 矢田良一